AX(AIトランスフォーメーション)とは?店舗の利益率改善事例に学ぶ 【RETAIL GROUP 山田尚さん インタビュー】

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2026.07.20

複数の小売店舗を運営し、店舗のAI活用支援も手がける RETAIL GROUP の山田尚さんに、店舗経営における「AX(AIトランスフォーメーション)」についてお話を伺いました。

AIを入れれば売上が伸びる、コストが下がる——そうした言葉が飛び交う一方で、「ツールは導入したけれど、現場も数字も変わらなかった」という声も少なくありません。

利益率のわずかな差が経営を左右する小売の世界で、AIをどう使えば本当に利益が残るのか。数字と現場の両方を見続けてきた山田さんに、実際の改善事例を交えながら率直に語っていただきました。

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目次

「効率化」で終わらせない。DXとAXは、そもそも変える対象が違う

ーーー 最近よく耳にする「AX」ですが、これまでの「DX」とはどう違うのでしょうか。 

ひとことで言うと、DX(デジタルトランスフォーメーション)は「作業をデジタルに置き換える」話で、AX(AIトランスフォーメーション)は「判断のしかたそのものを変える」話だと捉えています。

たとえば紙の発注書をタブレット入力にする、レジを電子化する。これはDXですよね。作業は速く、正確になりますが、何をどれだけ仕入れるかを決めているのは、あくまで人です。

AXは、作業の効率化はもちろん、最後の「決める(意思決定)」ところにAIが入ってきます。天気や曜日や近隣のイベントまで踏まえて『明日はこの商品がこれくらい動きます』と予測が出て、それを前提に店を回していく。人が握っていた意思決定の一部を、AIと分担するようになる。ここが決定的に違うところだと思っています。

ーーー つまり、ツールを入れることがゴールではない、と。 

そうなんです。ここを取り違えると、まず失敗します。『AIを導入しました』が目的化してしまって、店の回し方は何も変わっていない、というケースを本当によく見ます。

大事なのは、AIが出した答えをもとに、発注のしかたも、人の配置も、値引きのタイミングも変えていくこと。道具を新しくする話ではなく、店の運営そのものをアップデートする話なんですよね。

利益率が1%変われば、経営が変わる。だから小売にこそAIが効く

ーーー 数ある業種のなかで、なぜ小売でAIなのでしょうか。

小売は、利益率が本当に薄い商売なんです。業態にもよりますが、営業利益率が数パーセントということも珍しくありません。

裏を返すと、廃棄ロスや発注の誤差、人件費の無駄といったものを1%、2%削るだけで、利益が大きく動くということでもあります。売上を10%伸ばすのは大変ですが、ロスを2%減らすのは、やり方次第で十分に届く。そして、その『わずかな差を積み上げる』のは、まさにAIが得意とするところなんです。

ーーー 人の感覚では、なかなか詰めきれない領域だと。

そうですね。ベテランの店長さんの勘は本当にすごくて、AIより当たることもあります。ただ、それはその人がいる店の、その人が見ている商品に限られるんですよね。

店舗が増えて、商品が何千種類とあって、担当者も入れ替わっていく。そのすべてに同じ精度の勘を行き渡らせるのは、人間には無理があります。属人的な勘を、店全体・チェーン全体に広げていく。そこにAIを使う意味があると思っています。

廃棄ロス率5.2%→3.1%。ある食品スーパーで起きたこと

ーーー 実際に利益率が改善した事例を、差し支えない範囲で教えていただけますか。

食品スーパーで、需要予測AIを発注に取り入れた事例があります。それまでは、担当者が過去の実績と自分の経験をもとに、毎日手で発注量を決めていました。

そこに、天候・曜日・給料日周りの動き・近隣の学校行事やお祭りといった要素を学習させたAIを重ねました。AIが『明日はこの惣菜がこれくらい出ます』と数量を出し、担当者はそれを見ながら最終判断をする、という形にしたんです。

ーーー 結果は、どうだったのでしょうか。

いちばん効いたのは、廃棄ロスです。対象カテゴリの廃棄ロス率が、およそ5.2%から3.1%まで下がりました。作りすぎ・仕入れすぎが減ったということですね。

同時に、欠品も減りました。ここが見落とされがちなのですが、『売れるはずだったのに棚が空だった』という機会損失も、立派なロスなんです。捨てるロスと、売り逃すロス。その両方が縮んだことで、対象部門の粗利率が1.5ptほど改善しました。

数字だけ聞くと地味に感じるかもしれません。でも、利益率が数パーセントの世界で1.5ポイントというのは、店の景色が変わるレベルの話なんです。

ーーー 担当者の方の反応は、いかがでしたか。

最初は、当然ながら警戒されました。『機械に何がわかるんだ』と。長年やってきた方ほどそうです。

面白かったのは、しばらく併用してもらううちに、使い方が変わっていったことです。AIの数字をそのまま鵜呑みにするのではなく、『AIはこう言っているけれど、今日は近くで工事があるから少し減らそう』というふうに、自分の知っている現場情報を上乗せするようになった。人とAIの、いい役割分担ができてきたんですよね。この状態になると、強いです。

AIを入れても失敗する店には、共通点がある

ーーー 逆に、導入したのに効果が出ない店もあるかと思います。共通点はありますか。

あります。いちばん多いのは、さっきも触れた『入れて満足してしまう』パターンです。立派なシステムを契約して、ダッシュボードは動いているのに、現場の誰もその数字を見て動いていない。

予測が出ても、現場が信じてくれなければ意味がないんですよね。『なぜこの数字になるのか』を現場の人と一緒に確かめて、腹落ちしてもらう。その手間を飛ばすと、どんなに精度の高いAIでも、ただのお飾りになってしまいます。

ーーー 技術よりも、運用の設計が大事だということですね。

運用が9割だと思っています。誰が数字を見て、どのタイミングで、何を判断するのか。そこまで決めて、はじめてAIが仕事をしてくれる。

あと、最初から全店舗・全カテゴリで一気にやろうとすると、たいてい頓挫します。まずは一つの店の、一つの部門から。小さく始めて、数字で効果を確かめて、現場に『これは使える』と実感してもらってから広げる。遠回りに見えて、これがいちばん確実なんです。

人の仕事はなくならない。むしろ「人にしかできないこと」に集中できる

ーーー AIが発注や人員配置まで決めるとなると、店員さんの仕事は減っていくのでしょうか。

減る作業はあります。発注量を電卓を叩いて計算する、シフトを何時間もかけて組む。そういう、答えのある単純な判断は、どんどんAIに任せていいと思っています。

でも、それで人が要らなくなるとは、まったく思っていません。むしろ逆で、人が本来やるべき仕事に時間を回せるようになる、と捉えています。

ーーー 人が本来やるべき仕事、というのは。

接客であり、売り場づくりであり、想定外のことへの対応です。お客様の顔を見て『今日は寒いから鍋物を前に出そう』と気づく。クレームに、血の通った対応をする。棚を魅力的に組み替える。こういうことは、AIには決してできません。

発注やシフトに追われて、そこに手が回っていなかった店ほど、AXの効果は大きいんです。機械に任せられることを任せて、人は人にしかできないことをやる。その線引きをするのが、経営者の仕事だと思っています。

むしろ小さな店にこそ、AXの余地がある

ーーー こうした取り組みは、資本力のある大手だからできるのでは、という気もします。

それが、必ずしもそうではないんです。大手さんは、すでに大きな基幹システムが入っていて、そこを動かすのが逆に大変だったりします。しがらみが多いんですよね。

その点、規模の小さい店は身軽です。今は月額数千円から使えるクラウドのツールもありますし、まずは一つの指標、たとえば『売れ筋の惣菜の廃棄をなくす』というところからでも始められる。大きな投資をしなくても、AXの入り口には立てるんです。

ーーー 小さく始めることが、そのまま強みになる、と。

そう思います。身軽だからこそ、試して、ダメなら次を試す、というサイクルを速く回せる。小さな店の方が、意思決定も速いですしね。『うちには関係ない』と思っている個人店さんこそ、実は伸びしろが大きいと感じています。

5年後の店舗。「モノを売る場所」から「選ぶ理由をつくる場所」へ

ーーー 5年後、10年後の店舗は、AIによってどう変わっていると思われますか。

在庫、価格、人員配置といった裏側の最適化は、かなりの部分がAIに任されるようになると思います。人が細かい数字とにらめっこする時間は、確実に減っていく。

そうやって浮いた力が、どこに向かうか。私は『体験』だと思っています。ネットで買えば済むものを、わざわざお店で買う理由——それをつくる場所に、店舗はなっていく。モノを並べて売る場所から、選ぶ理由や、その店で買う楽しさをつくる場所へ、役割が移っていくイメージです。

ーーー AIが進むほど、かえって人の部分が問われる、ということでしょうか。

まさにそうです。効率の部分がAIで平準化されていくと、最後に差がつくのは、その店らしさや、人の温度みたいなものになる。皮肉なようですが、AXを突き詰めるほど、人の価値がくっきりしてくると思っています。

これからAXに取り組む経営者へ。「完璧なAI」を待たなくていい

ーーー 最後に、これからAXに取り組もうとしている店舗経営者の方へ、一言いただけますか。

完璧なAIが出てくるのを待つ必要はありません、とお伝えしたいです。今あるツールでも、身近な困りごと一つを解くことは、もう十分にできます。

『廃棄が多い』『発注が属人的で怖い』『シフト作成に時間がかかりすぎる』——どの店にも、そういう小さな痛みがあるはずです。そのうちの一つを選んで、小さく試して、数字で確かめてみる。効果が出たら広げればいいし、出なければやめればいい。

身構えすぎないことだと思います。AXは、一部の先進的な会社だけのものではありません。目の前の一つのロスを減らすところから、誰でも始められる。それが、いちばんの近道です。

ーーー 本日は貴重なお話をありがとうございました!

山田 尚さんの経歴

大学卒業後、大手小売チェーンに入社し、店舗スタッフから店長、エリアマネージャーまでを経験。現場で発注・在庫・人員配置の実務に長く携わる。

その後、本部のマーチャンダイジング部門で需要予測とデータ活用に取り組み、勘と経験に頼っていた店舗運営を数字で支える仕組みづくりに従事する。 

2011年、RETAIL GROUP を設立。自社での食品スーパー・生活雑貨店の運営に加え、これまでの現場経験とデータ活用の知見を活かし、中小小売店に向けたAI活用・利益率改善のコンサルティングを展開している。

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